V5. Choosing wisely in Japan ― Less is More

“Choosing Wisely”国際円卓会議(International Roundtable) 参加報告

日時:2014611(火曜日)612(水曜日)

会場:De Waag-Theatrum Anatomicum (旧計量所-解剖学講堂)

(所在地:Nieuwmarkt 4, 1012 CR Amsterdam, the Netherlands)

参加国:カナダ、アメリカ、イギリス、オランダ、デンマーク、ドイツ、イタリア、日本、オーストラリア、ニュージーランド(10ヵ国、代表20名【名簿参照】、総参加者数3540)

概要:

“Choosing Wisely”キャンペーンは、ABIM財団(American Board of Internal Medicine Foundation) のプロフェッショナリズム啓発活動、特に2001年に欧州内科学連合等と合同で起草された「医のプロフェッショナリズム新千年紀憲章」を引き継ぐ具体的な活動として約3年前に始まったが、今回の円卓会議は、このキャンペーンを世界に拡げるべく、“Choosing Wisely”-Canada の代表である Wendy Levinson 教授(Toronto 大学内科学講座統括部長)の呼びかけで、「過剰医療」の問題に関心を抱く欧米・アジア太平洋各地域の関係者が一堂に会してその基本理念を共有するとともに、現状を把握し、今後、キャンペーンを国際的に推進するに当たっての方略について集中的な討論を行う「場」として企画された。

会場について:

今回の円卓会議の会場に選ばれたのはアムステルダム旧市街の中心にある旧計量所内の研修施設で、3階の主会場には「解剖学講堂(Theatrum Anatomicum)」という名称が冠せられている。外からは、一見、古い教会のように見えるが、1617世紀オランダで運河を利用した交易が活発に行われていた頃、古い計量所内部が講堂に改装され外科医の教育を目的とした屍体解剖が行われていたという歴史的な建築物である。因みに、レンブラントが有名な「夜警」を制作したのもこの建物の中の一室であったとのことである。

“Choosing Wisely”キャンペーンの各国における進捗状況に関する事前アンケート結果について:

参加10ヵ国の現状はPre-Work Summary と題した小冊子にまとめられ、【資料】として事前配布された。

1日目(午前)

各国の正式代表が中央の5つのテーブルに分かれて着席し、周囲には各国からの若手研究者が着席した。Levinson 教授による開会の挨拶と会議の趣旨説明に引き続き、各国の代表がそれぞれ簡潔に自己紹介を行った。次いでABIM財団副代表の Daniel Wolfson 氏から、“Choosing Wisely” キャンペーン活動の基本理念とこれまでの経緯について解説があった。同氏が、特にこのキャンペーンでは、“Choosing Wisely” をキーワードに医療職と患者・市民の対話を促進することに力点がある、とされたことは、当然とはいえ、印象的であった。引き続き自由討論に入り、各国の状況を踏まえたさまざまの意見が表明された。

以下、印象的であった論点等を順不同に列挙する。

”Choosing Wisely”はあくまでも、医療職と患者・市民をつなぎ、対話を促進するためのキャンペーン活動であり、political movement の一形態である。

米国の消費者団体として有名な「Consumer Reportの代表として参加しておられた John Santa 医師(元オレゴン州の家庭医)をはじめ何人かの代表からは、同じ「過剰医療」を戒める内容であっても、一般市民(消費者)は、用語の使い方で異なった印象を持つことを強調され、“Choosing Wisely” が普及した一因に、この用語の受け入れ易さがあったとの見解が示され、多くの参加者が賛同した。

【参考】「過剰医療」を戒める幾つかの類似用語について:

choosing wisely

賢明に選択する

選択する主体は医療職/患者・市民のいずれも可

waste

無駄

無駄をなくす→倹約する、との語感あり

low value(*) care

低価値医療

費用の割に患者にとっての有用性が低い医療

「過剰医療」を意味する現時点での標準的な用語(米国)

cost saving

費用を節約

医療費節減のイメージが強く出る

*value は、医療経営学(Michael Porterなど)では、正確に定義された概念であるが、一般市民にとっては、「value for price等の表現を通じて「お徳用」といったニュアンスが浸透している。

⚓キャンペーン対象の消費者団体としては、AARP(旧称:American Association of Retired Persons、会員数3600万人)の存在が大きく、また、消費者の国際組織としてはConsumer International がある。

⚓キャンペーン推進の戦略策定に関連した論点

(1)ボトムアップで行うか、トップダウンで行うか? (2)政府(行政・政策)の関与をどう考えるか?

(3)NICEガイドライン(イギリス)の手法をどう評価するか? (4)カバーする領域を絞るか? 広くとるか?

(5)”underuse”(実施すべきであるのに行われていない医療)にも積極的に言及するか否か?

(6)患者・市民の参加をどこまで強調するか? 患者・市民が選ぶ「リスト」は可能か?

(上記に加えて)、企業(製薬会社、医療機器メーカー等)は、そもそもこのキャンペーンに加われるか?

⚓医療安全の観点から”overuse” (過剰医療) “harm”(有害性)をどのように提示するかも重要である。

⚓健康アウトカムに立脚した「測定(measurement)」、「評価」が必須であることは、多くの参加者(特に health service research の研究者)によって主張された。また、クレーム情報(日本ではレセプト情報)の活用だけでは限界があることも指摘された。(事前配布されたJAMAの最新論文(*)を参照のこと)

* AL Schwartz, BE Landon et al: Measuring Low-Value Care in Medicare

(JAMA Intern Med. doi:10.1001/jamainternmed.2014.1541,Published online May 12, 2014)

第1日目(午後)

各国代表が順番に各国の状況を紹介した(5分間)。小生からは、ジェネラリスト教育コンソーシアムでの討論内容が「”Choosing Wisely”-Japan」として出版されたこと等を紹介し、同書を各国代表に献呈した。

 

第2日目:

Terence Stephenson教授(全英医学会会長/全英小児科学会前会長)が、会場の壁面を飾るレンブラントの「テュルプ博士の解剖学講義(複写)」をPPTの背景に使って第1日目の振り返りを行われた。”Choosing Wisely” のメッセージは、誰によって、誰に向かって伝えられるべきか、メッセージの内容はどのようなものであるべきか等が分かり易くまとめられ、大変好評であった。小生からは、”Choosing Wisely” キャンペーンのメッセージは、最終的には消費者である患者・市民に届けるべきであるとしても、プロフェッショナリズム教育の観点から医学生・研修医を対象としたメッセージの伝達を考慮しても良いのではないか、とのコメントを付け加えた。昼食をはさんで分科会形式で討論が進行したが、小生は医学教育関連の分科会に参加した。このグループ討論の中で、Levinson教授から“Choosing Wisely" キャンペーン推進をテーマとした医学生の国際コンペティションを実施してはどうかとの提案があり、提案を実行に移す担当はオランダ代表に決まった。他の4つの分科会からも同様に具体的な提案があった。

 

まとめ:

国際円卓会議のまとめは、2014年9月頃、Levinson教授を中心に成文化・上梓される予定であることが紹介され、今後もメール等で意見交換を継続することを確認して2日間の集中討論を終えた。(文責:小泉)


Vol.5 あなたの医療,ほんとはやり過ぎ?―過ぎたるは猶及ばざるがごとし
Choosing wisely in Japan ― Less is More

内容紹介

Editorial: Appropriate Medicine and Appropriate Care

 

 先日初診外来で紹介患者が、水戸の研修病院に受診した。10代後半の女性で、診断は典型的な菊池病であった。SLEを示唆する症状や身体所見はまったくなかった。担当した若手医師がUptodate(オンライン臨床医学エビデンスサマリー)をチェックしてみると、Kikuchi-Fujimoto’s diseaseという章のなかで「菊池病患者は全例、抗核抗体検査をルーチンに行うべきである」という記載があった。たしかに菊池病患者がのちにSLEを発症することがあるのはよく知られてはいるが、菊池病の患者でSLEを疑うような徴候が無い患者さんにルーチンに抗核抗体検査を行うということは、我々の診療では行っていないことである。なぜならSLEを予防する介入手段が無いからである。また、「菊池病の既往+抗核抗体陽性」ということで、その患者さんへの「ラベリング」効果で精神的な不安を長期にもたらす可能性もある。早速、元となる臨床研究を調べてみると、菊池病の1.5%にのみSLEが発症していた程度で、陽性的中率が低いことがわかった。以上のことをまとめて、Uptodateにメールを送ったところ、数日間後に内容訂正を行った由の連絡があった。タイトルもKikuchi’s diseaseと最近の日本での名称に改訂され、「菊池病患者でSLEを疑うような徴候があるときには抗核抗体検査を行うべきである」という記載となっていた。ありがたいことである。ルーチン検査はOverdiagnosisの 温床となることがあり、患者に有害な影響をもたらすことがある。本書を読めばそれが理解でき、そしてそのことがいかに重要であるというキャンペーンが世界 レベルで展開されているということがわかると思う。本書を読まれた読者が検査の適応を考慮した賢い選択を行ってくれることを望む。先に紹介した菊池病の患 者さんはその後外来ベースでNSAID投与のみで治癒した。最後の予約外来に笑顔で元気な姿をみることができて若手担当医と自分もうれしく感じた。適切な医療介入Medicineで適切なケアCareができたこともうれしさを倍増させたのである。

 編集:徳田安春

Contents

1.Editorial
Editorial: Appropriate Medicine and Appropriate Care/ 徳田安春
2. Recommendation
提言: あなたの医療,ほんとはやり過ぎ?~過ぎたるはなお及ばざるが如し~
Choosing wisely in Japan ―Less is More/ 徳田安春
Case Study
Too much medicine ―元腎臓内科専門医の悩み/ 杉本俊郎
全体討論
The whole debate on Choosing wisely/ 徳田安春

3. Lecture&Workshop
Lecture 1
過剰診療: 何が問題か,どう解決するか/ 小泉俊三
Lecture 2
がん検診でのoverdiagnosis/ 名郷直樹
Workshop
「Choosing wisely」ってどういうこと? / 川尻宏昭

4. Special Articles
1:米国アレルギー・喘息・免疫学会/ 杉田周一,金城光代
2:米国家庭医療学会/ 宮崎 景
3:米国緩和医療学会/ 東 光久
4:米国神経学会/ 黒川勝己
5:米国眼科学会/ 黒川勝己
6:米国耳鼻咽喉科 ― 頭頸部外科学会/ 杉田周一,金城光代
7:米国小児科学会/ 児玉和彦
8:米国心臓病学会/ 宮崎 景
9:米国産婦人科学会/ 本田美和子
10:米国内科学会/ 東 光久
11:米国放射線医学会/ 本村和久
12:米国リウマチ学会/ 杉本俊郎
13:米国消化器病学会/ 仲里信彦
14:米国老年医学会/ 本田美和子
15:米国臨床病理学会/ 原 穂高
16:米国臨床腫瘍学会/ 東 光久
17:米国心エコー図学会/ 水野 篤
18:米国腎臓学会/ 杉本俊郎
19:米国心臓核医学学会/ 水野 篤
20:米国泌尿器科学会/ 安藤高志
21:米国脈管学会/ 水野 篤
22:米国心血管CT 学会/ 水野 篤
23:米国病院医学会―成人病院医学/ 仲里信彦
24:小児病院医療/ 児玉和彦
25:米国核医学・分子イメージング学会/本村和久
26:米国胸部外科学会/ 砂川恵伸

5. Interview
Choosing Wisely の根幹はプロフェッショナリズムである
UCSF (University of California, San Francisco)
Mitchell Feldman 副学寮長に聞く 〔JGIM編集長〕


 

登録情報

  • ムック: 201ページ
  • 出版社: 株式会社尾島医学教育研究所; 新刊版 (2014/5/3)
  • 言語: 日本語
  • ISBN-10: 4906842046
  • ISBN-13: 978-4906842049
  • 発売日: 2014/5/3
  • 商品パッケージの寸法: 18.5 x 18 x 25.8 cm